カードローン社長のその後5

『怒られましたよ。嘘つき呼ばわりされましたよ』銀行から戻ってきた社長の最初の言葉である。
まあ返済日当日に返せないから返済日を伸ばしてくれと言ったのだから、怒るだろうな。

『なんで、あんな若い奴に嘘つき呼ばわりされないといけないのですかね』と社長嘘つきというのは少しひどいかもしれないが、銀行というのは、お金を貸す時にお客さんと返済期日を約束する。

だからそれを守れないと、嘘をつかれたという事になる。なんか子供みたいな理屈で、そんな言い方されると頭にくるけど、そう考える人達の集団だと割り切った方がよい。

融資をする時に何を見るかというと、この社長は約束を守る人かどうかだ。待ち合わせの時間に平気で遅れるような人はそれだけで、約束を守れない人、だから返済の約束も守れないだろうと考える。

事業計画の達成度合いなんかもとても大事。経営者はよく前向きな計画を出す。夢のような計画を出す人もいる。しかし銀行にとって事業計画は、経営者が内外に向けた数字のコミット。だから計画通りにいかないと、この人は自分でコミットした事もできないのと思う。

『そんな事言ったって計画通りにいかないのが現実だろ』なんて言おうものなら『計画を立てた時の、現状の認識が甘いのではないですか?』と言ってくる。頭にくるよね。そんな事言われたら。

でも業績計画の約束を守れない経営者は返済の計画も守れないだろう。だから融資しませんという考えになる。

そんな考えをして良いのか?と思うが、良いとか悪いとかでなく、もう銀行ってそういう人達だって割り切るしかない。だから事業計画も、バラ色・ふつう・ネガティブと3種類作成するのが良い。

それと銀行に業績を説明する時は、今後どうなるかも重要だけど、前年と比べてどうだったかとか、計画と比べてどうだったかをきちんと整理して説明できるようにした方が良い。

ところでカードローン社長の件。結局、返済を待ってもらった。というより返せないのだから待ってもらうしかない。で、2か月後に無事入金があって返済できた。

ところが、メデタシ、メデタシにならない。銀行は返済が遅れたので、新しい融資に対してとても消極的になる。新しい銀行と取引を開始しなければという事で、次回からは、しばらく新規の銀行と付き合う方法だな。

カードローン社長のその後4

さてどうしましょうか
まず資金繰りを確認しようと思い社長に『社長、資金繰り表って作っています?』と聞いてみた。『え?なんですかそれ』

資金繰り表はその企業の資金繰りを把握するのに大事な資料である。詳細は省くが、作成した方が良い。社長の頭の中で、勘と経験で資金繰り表ができている企業もある。しかし資金が潤沢であればそれでも良いが、そうでなければ作った方が良い。何故かというと、これをつくると、いつ頃、いくら足りなくなるかが明確にわかるからだ。

最近では会計ソフトでも作成できるようである、しかしそれを有効的に提案している税理士先生はあまりいない。税理士先生は決算書作成が主業務で、資金繰りについては企業が独自でというのが多い。

現場をみて思うのだが、毎月作成される試算表を経営に活かしている企業は少ない。『試算表?何それ』という社長もいる。試算表ですらそうだから資金繰り表となると全く別世界なのだろう。

今回は時間もないので社長からヒアリングして資金繰り表を私が作成。『今後の売上は?』『今月の入金は?』『返済は?』『今の仕掛かり工事はどんな状況?いつ入金になるの?』など立て続けに質問をして資金繰り表を作っていった。今月が終わったら当然来月分と再来月分と3ヶ月先まで作って見た。

『あれ?社長今月500万円っていったけど300万円で大丈夫じゃない?』
『あっ 本当だ』
『それと、来月〇〇産業と△△興業から入金があるよね。これで残りの300万円も払えると思うけど』
『あっ 確かに』
『てことは、〇△銀行の返済を300万円だけ1ヶ月待ってもらえばいいんでしょ』
『あっ、本当だ』

こんな簡単な事でも資金繰り表を作ると明確に見える。

とりあえず、今日期日の返済700万円を400万円だけ返済し、残りを待ってもらうように交渉するという事になった。しかし、期日当日にジャンプ。しかも返済資金を使ってしまったのだから銀行怒るだろうな

カードローン社長のその後3

『返済が随分多いですね』
ここは、カードローン社長の事務所。時間は朝7時半。
昨晩遅く電話をかけてきて500万円借りたいと言ってきた社長。
パニック状態だったので、直接会う事にして早朝のミーティングに切り替えた。
とりあえず今日どこにいくら払うのかを整理してみた。
人件費、外注費、買掛支払、経費等と比べて、銀行への返済資金が多かったので思わず出た一言であった。

『3ヶ月くらい前に700万円借りたんですが、その返済が今日なんです』
『返済って分割じゃないの』
『いやまとまったお金が入る予定で、それで返済するつもりだったのですが』
『入ったの』
『入ったんだけど』
『ひょとして』
『すいません使っちゃいました』
あちゃー、最悪
期日一括返済の借入をいきなり返済当日にジャンプ、しかも返済予定のお金を既に使ってしまったとは。

もともと工事の請負業者だったカードローン社長、たまたま大きな工事を受注した。しかし支払いの金額も当然多くて、そのために支払い分を銀行の借入で対応したみたい。当然返済は工事代金の入金。銀行もそれがわかっている。ところが入ったお金を返済に回さないで使ってしまったのだ。

中小企業ではありがちのパターン。これで払う予定だったのだが、入金された時に他にも支払があったのでそちらを払ってしまった。でも銀行はそれをとても嫌がる。銀行は借入の返済はこの工事の回収代金と思って融資をしている。それがまだ入っていませんと言うなら良いけど、入ったけど使ってしまいましたとなると『騙された』となる。別に騙したわけではないけど銀行ってそういう風に考えるんだよ。
そんな時本当は入ったお金できちんと返済して、また借りるというのが良い。

でもそれって企業にしてみると返したけど、本当に貸してくれるの?となる。まあそれも至極当然。だから返す前にまた借りる。とか借りたお金で返す。という方法になる。
『えっ?そんな事やってくれるの?』
『やってくれます。やり方次第ですが』
でも今回は当日なんで時間がない、さてどうしましょうか